PROFILE

杉山 登志郎様

 

福井大学 子どものこころの発達研究センター客員教授
専門は児童青年期精神医学
「発達障害」の研究の第一人者として、多方面でご活躍されている

 

※杉山登志郎様に関する詳細は、最後をご覧ください。

 

 

根岸 葉槻(以下、根岸)
「杉山様は長年、発達障害の研究に携わられてきたとのことですが、その中で、愛着問題に目を向けようと思われたきっかけを教えてください。」

 

杉山 登志郎様(以下、杉山)
「長年、児童精神科医として働いていますと、愛着の大切さを身に染みて感じることが多々あります。
私は、愛着の形成は『人間の基礎工事』に該当することだと考えています。
ですので、愛着形成が人生を築いていく上での基盤になると考えたとき、精神科医としてここにも目を向けなければいけないと感じました。

 

根岸
「愛着形成が上手くいかないと、その後の構築も上手くいかないというわけですね。
杉山様がこのように思われた理由として、具体的にどのような出来事があったのでしょうか?」

 

杉山
「私は2001年に、あいち小児保健医療総合センター 児童精神科のチーフとして赴任しました。
そこまで発達障害を主に研究していたため、ここでは子ども虐待に真正面から向き合いたいと、子ども虐待の専門外来をつくりました。
そこで、数百名の子ども虐待の診療を行ったのですが、正直、あまりの重症さに驚かされました。
この時、なぜこのようなことが起きてしまうのだろうと初めて考えさせられたわけですが、そこでいきついた答えが、友田明美教授の研究していた “ 愛着と脳の関係 ” でした。」

 

根岸
「その点に関して、もう少し詳しくお聞きしても宜しいでしょうか?」

 

杉山
虐待を受けると、脳自体が変形し、また機能が損なわれ、発達障害のような状態になってしまいます。
ですので虐待を受けた子どもを、ただの情緒障害として捉えてはいけないとこの時に分かりました。
虐待によって脳が変形し、働きが変わると、発達障害と似た症状だけでなく、解離性障害、また幻覚なども起きてきます。
そしてこの中の1つに、愛着障害も上げることができるんです。
そもそも愛着障害とは、安心が提供されない環境で育った際、人間の基礎工事部分が欠落した状態のことを言います。

 

根岸
「冒頭でも、愛着形成(=基礎工事)のことをお話してくださいましたが、具体的にはどのようなことに関わってくるのでしょうか?」

 

杉山
「愛着形成は様々なことに影響してきます。
それをお伝えする前に、まずは『愛着が形成される仕組み』についてお伝えしたいと思います。

運動能力を獲得し始めた子どもは、物理的に親から離れるようになっていきますよね。
その際、親から離れたときに何が起こっているかといいますと、子どもの中で不安が起きています。
この時子どもは、養育者のもとに駆け寄って不安を解消していくわけです。
このような体験を繰り返す中で、次第に養育者の存在が内在化し、仮に近くに養育者がいなくても、不安には駆られなくなるという仕組みが出来上がります。
これが愛着の形成というものです。
このように愛着は、『対人関係の構築』に大きく関わってきます。

 

根岸
「子どもが安心、リラックスしているときは、愛着形成ができているという証拠なんですね。」

 

杉山
「その通りです。また愛着は、『社会的な行動の基盤をつくる』要因にもなります。
例えばですが、児童養護施設に暮らす子どもの中で、万引き行動を繰り返してしまう子がいます。
万引きを犯してしまった後は、ケアワーカーの方と謝りに行き、その時は必死で謝るのですが、また繰り返してしまうということが何度も起こります。
ただこの時、万引きを犯してしまったらケアワーカーの方がどんな感情になるだろう、きっと悲しい思いをさせてしまうだろうと感じると、そこで止まるんです。」

 

根岸
「ここまでのお話から、愛着は人が生きていく上で欠かすことのできない、非常に重要なものだということがわかりました。
ちなみにですが、愛着は行動面だけでなく、感情面においても関わってくるのでしょうか?」

 

杉山
はい、人の感情も愛着が基盤になってくるものが多々あります。
例えば、寂しいという感情の形成は、愛着がもとになっているのですが、自閉症の子どもは愛着の形成が遅れるということがあります。
どのぐらい遅れるかと言いますと、小学校中学年まで遅れ、そこまでは寂しいという感情は、怒りで表現されることが多いです。
ですので、寂しいという感情が出た時は、愛着が形成されたという証拠にもなってきます。

また辛い経験を乗り越える際にも、愛着形成は重要な要素となってきます。
皆さんが辛い経験をした際、どうやって乗り越えてきたかを考えてみてください。
きっと自分を支えてくれた存在や、自分を愛してくれた存在を思い浮かべて乗り切る方が多いのではないかと思います。
これを、トラウマからの防波堤と呼んでいます。
我々は、様々なトラウマが来ても、愛着という壁によって、そのトラウマがじかに突っ込んでくることを防いでいるんです。」

 

根岸
「愛着は、様々なところに密接に関わっていることがわかりました。
ここまで発達障害の研究と共に、愛着問題にも目を向けられてきた杉山様ですが、世間一般での愛着問題の認知度はどのように感じられますか?」

 

杉山
「愛着が大切ということは、ご存じの方が多いと思います。
ただ、愛着障害の凄まじさや、痛ましさまでは伝わっていないのが現状だと感じています。

実は、子ども虐待の件数は右肩上がりで増えてきているのですが、先ほど述べたように症状が似ているので、発達障害ということで捉えられるケースが多いんです。
だが実際は、発達障害という言葉だけでは片づけられないケースが増えてきています。
私は、愛着障害が問題となっていることも多数あると考えています。

 

根岸
「私自身もこの活動を始めてから、愛着問題は一部の方だけの問題という印象を持っていました。
そのような中、杉山様が愛着問題に向き合う際、大切にされていることなどがありましたら教えてください。」

 

杉山
私は、愛着問題に向き合う際、『親子併行治療』が大切だと思っています。
特に子ども虐待においては、両者に向き合っていく必要があると考えます。

また虐待を受けた脳は、脳そのものに変化が起きているため、それを念頭において関わる必要性があります。
これを今後は、教育現場などでも積極的に取り入れていけたらと思っています。」

 

根岸
「ではここからは、今後のことに関してお聞かせください。
ここ最近はコロナウイルスの影響を受け、家族関係にも変化があると感じています。
そのような中で、杉山様が懸念される問題などがありましたら教えてください。」

 

杉山
「いつも以上にストレスが溜まりやすく、それが社会の弱い部分にしわ寄せになっていると感じています。

少し大きな話になりますが、21世紀に入ってから世界はグローバル化が進み、そして新自由主義に入りましたよね。
すると富が一極集中化しやすく、貧富の差が拡大していきます。
その結果、富が集まらないところは、社会的な不安定要素が大集合しやすいという構造がつくられました。
ですが今回のコロナウイルスの影響で、国レベルで様々なことをしなければいけない状態に入り、新自由主義を見直すいい機会になっているのではないかと見ています。

また本当に必要なものと、不必要なものが区分化された今だからこそ、私たちの生活に本当に必要なものは何か、改めて問いかけてみる必要があるのではないでしょうか。」

 

根岸

「ありがとうございます。ちなみにですが、この影響で教育の仕組みなども変わると思われますか?」

 

杉山
「そうですね。今回の事態でオンラインというものが主流になりましたが、今後はこれらもコミュニケーションの在り方になるのではないかと感じています。
例えばですが、不登校や引きこもりで学校に登校できない子も、オンラインでの授業が可能になれば、いまよりもその子の可能性を広げていけるのではないかと見ています。」

 

根岸
「それでは最後に、杉山様の今後の夢を教えてください。」

 

杉山
現在私は、フラッシュバックの治療に力を入れています。
実は、逆境的体験の中で育った子ども達は、精神的な問題だけでなく、身体の病気のリスクも高まりやすいということが研究で分かっています。
この理由は、フラッシュバックの辛さから逃れるために、大量の飲酒や、喫煙をする傾向が通常よりも高まるためです。
アルコールを過剰に摂取すれば肝臓への負担も増えますし、煙草を吸い過ぎれば肺がんのリスクが高まる、これは必然ですよね。

そこで、このフラッシュバックを軽減するための治療を、普通診療の中で簡単に実施できないかと研究してきました。
実際に、それらをまとめた著書『発達性トラウマ障害と複雑性PTSDの治療』も出版しています。
今後はその科学的な検証を行い、より多くの方にその手技を届けられたらと思っています。」

 

≪ 杉山 登志郎様について ≫

 

杉山 登志郎様

https://www.nippyo.co.jp/shop/author/2276.html
(『日本評論社』より)

 

福井大学 子どものこころの発達研究センター

http://www.med.u-fukui.ac.jp/CDRC/

 

略歴

1951 年静岡市に生まれ
1976 年久留米大学医学部卒業
久留米大学医学部小児科、名古屋大学医学部神経科、静岡県立病院養心荘、愛知県心身障害者コロニー中央病院精神科医長、カリフォルニア大学留学、名古屋大学医学部精神科助手、静岡大学教育学部教授を経る
2001年 あいち小児保健医療総合センター心療科部長兼、保健センター長
2010年 浜松医科大学児童青年期精神医学講座教授
現在   福井大学子どものこころの発達研究センター客員教授

 

著書

*子ども虐待という第四の発達障害
学研プラス 2007/4/24

*発達障害の子どもたち
講談社現代新書 2007/12/20

*発達障害の薬物療法―ASD・ADHD・複雑性PTSDへの少量処方
岩崎学術出版社 2015/7/10

*子育てで一番大切なこと 愛着形成と発達障害
講談社現代新書 2018/9/19

*発達性トラウマ障害と複雑性PTSDの治療
誠信書房 2019/2/5

*発達性トラウマ障害のすべて こころの科学増刊
日本評論社 2019/9/15

 

上記の書籍に関しては、こちらをご覧ください▼

https://www.amazon.co.jp/s?i=stripbooks&rh=p_27%3A%E6%9D%89%E5%B1%B1+%E7%99%BB%E5%BF%97%E9%83%8E&s=relevancerank&text=%E6%9D%89%E5%B1%B1+%E7%99%BB%E5%BF%97%E9%83%8E&ref=dp_byline_sr_book_1

 

講演会実績

*福祉人材育成体制構築事業 キャリアアップ支援研修 発達障がい支援者養成研修 児童福祉関係職員向け研修会 杉山登志郎先生講演会『発達障害と子ども虐待』 2011.5.30

*日本臨床発達心理士会北陸支部主催 講演会 2016.12.4

*福井大学 子どものこころの発達研究センター 講演会 子どものこころを癒す 2019.11.3

*第2回杉山登志郎先生と学ぶ特別支援教育セミナー東北 2019.11.16

 

※著書、講演会実績に関しては、一部を抜粋して掲載しております。

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